2012年7月12日木曜日

個人的経験としての1980年前後




1983年 「内面化される構造」展示写真



1970年代の終わり頃、未だ学生だった私の決して多くはない経験でも、それまでとは異なる芸術の動きが始まっているように感じられた。当時は平面と呼称されることが多かった絵画を中心とした、積極的な表現に向かう制作と批評の動きである。

この時期、個人的経験のなかで重要だと思われた展示を思い出すと、①1976年「アメリカ美術の30年:新しきものの伝統/ニューヨーク・ホイットニー美術館コレクションから/アメリカ合衆国建国200年記念」展(西武美術館)、②1980年「感情と構成」展(横浜市民ギャラリー)、③1980年「Art Today”80 絵画の問題展:ロマンティックなものをこえて」(西武美術館)、④1983年「FOCUS ’83 PARTⅠ(中村功と斉藤隆夫の展示、鎌倉画廊)」、⑤1983年 第19回今日の作家展「内面化される構造」(横浜市民ギャラリー)⑥1984年 「内面化される構造2」(東京セントラル美術館)がある。

 ①は、私自身まだ自分の方向性を見いだせないままに様々な作品を見ていた時期で、アメリカの抽象表現主義の作家たちを含めた作品を実際に見ることが出来た点で、とても貴重だった。②と③、④は藤枝晃雄氏企画であり、日本でのポストもの派、世界的にはポストミニマリズムのこの時期に、積極的な表現を目指す動きをフォーマルなものとの関わりの中で作り出そうとしていて、絵画を中心に置きながらもそれとは異なる方向性も取り上げていて、私には鮮烈な体験だった。 ⑤、⑥は早見堯氏企画で、情動といったレベルを芸術形成の重要なファクターとして取り上げ、私自身も参加していて制作の上でも転換期であり、とりわけ印象深いものがある。

 当時のアメリカで起きていた動向を知ることができる資料のひとつとして、ARTFORUM SEPTEMBER 1980にEnergism:An Attitude, by Ronny H. Cohenがある(注)。「イナージズム」という言葉に初めて触れたのは上記④、「FOCUS ’83 PARTⅠ」カタログの藤枝氏の文章であったと記憶している。このRonny H. Cohenのエッセイには斉藤隆夫の作品写真もあり、鎌倉画廊にも展示されていたと記憶する。このエッセイ中では他に個人的に興味を抱いた作家にTom Butter、Steve Keisterといった三次元の作品を制作する作家も含まれていた。

Ronny H. Cohenのエッセイで取り上げた作品は多岐に及び、今から見ればそれほど重要ではない作品も含まれていると思うが、斉藤作品は絵画とも立体ともつかない、正面視に限定もされない独自のスタイルで、自分の制作の方向性と大きく重なる部分があって、とりわけ刺激的だった(残念なことにその後の斉藤の展開は不明である)。時代的にはその後、新表現主義と呼ばれた絵画が商業主義と結びついて日本を含めた美術界を席巻し、Energismという視点や日本での真摯な取り組みが見逃されることになってしまったようだ。

このEnergism:An Attitudeというエッセイの重要性は、伝統的形式にとらわれない積極的な表現を作り出そうとしている作家を見ていたことにある。そこに、混沌としながらも構造や形式とともに積極的な表現を作り出そうとしていた当時の状況を見ることができる。
 1980年「感情と構成」展、1983年と1984年の「内面化される構造」展はこのエッセイの視点と共通するものがあったように思うし、今に至っても鮮度を保っていると思える。私自身、現在に到るも、作品はこの延長上のものとしてある。

(注)この原文と訳文を読むことができたのは須賀昭初氏、須賀喜恵さん御夫妻の御厚意による。原本を快く見せていただき、須賀喜恵さんによる全訳も読ませていただくことができたことで、ようやく全貌を知ることが可能となった。ご厚意に深謝したい。本が出てから30年後の2010年のことであったが、私にとって決して過去のことにはなっていない。