2012年1月23日月曜日

ポロックのモザイク


愛知県美術館のポロック展(注1)に、今まで図版でも見たことのない珍しいモザイク作品(注2)があった。ポロック唯一のモザイク作品らしい。

見た時には驚いただけだったのだが、帰路、思い出しながら実はポロックの表現の重要な部分と関わり合う作品だと思うようになった。

企画者の大島氏によると、この作品は自発的に制作されたというのではなくWPA/FAPの依頼で制作されたが認められなかったために受け取られず、公共建築には飾られること無くイーストハンプトンのアトリエに持ち込まれたものだという。使われなかったテッセラも持ち込まれ、ポロックの提案、クラズナー制作でリビングのテーブルが様々なモノとともに制作されたようだ。

カタログ(注2)によると、ポロックが画面に異質な物体を混ぜるようになるのはこの作品以降であるという。そういう意味においてもだが、それ以上に、物体的な表面の現れが最盛期の画面と共通であることも重要だと思われる。

描かれ制作された絵画でありながら物体的な表面として現れる、そのような表面の在り方を強く画家に示唆する作品だったのでは、と考える。

モザイクは通常、乾いていない地(ポロックの場合はセメント)にテッセラという色ガラスの破片を貼り付けるので、制作は水平に置かれた状態で行われる。これもまた、以後のポロックの制作において最重要とも言えるポイントだ。
テッセラは垂直に生乾きの画面上のセメントに押し込まれ沈み込むのだが、このことはポロック最盛期のポアリング、ドリッピングにおいて絵の具が重力に従って画面に落ち、染み込むことと相似形である。
さらに言うのであれば最盛期の画面で霧状に点在する絵の具の様相それ自体が、モザイクにおける破片状の色彩=テッセラとも相似形と言える。

水平状態での制作という意味でインディアンの砂絵との関連も考えられるが、砂絵は地面に直接砂が撒かれて描かれるので水平のまま盛り上がっているのであり、そのまま消えていくものでもある。

ポロックに於ける水平性で重要なのは、単に水平なのではなく、絵画として垂直にされた水平性だということだ。
この意味ではアンチ・フォームの時期のロバート・モリスやミニマリズムのカール・アンドレにおける床作品の水平性とそこに伺える自然性とは異質である。

水平な表面に貼付けられるという制作方法、制作後に垂直にされた水平性によって、モザイク作品はイーゼルペインティングのような自然発生的な重力方向が画面から伺えなくなる。

しかし、ポロックの最盛期の作品の場合、キャンバス四辺に残された余白の広さの違い、絵の具の密集度の違いで上下が自然に感じられるようにされた作品もあり、単に物体的なものを絵画として無理やり垂直にするのではなく、絵画としての視覚、空間が目指されているのもわかる。



注1、「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」 
     愛知県美術館    2011年11月11日ー2012年 1月22日
     東京国立近代美術館 2012年 2月10日ー2012年 5月 6日
注2、「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」カタログNo16 「Untitled」*写真も同カタログから部分を掲載