2013年1月7日月曜日

絵画と三次元、ピカソの場合−3  コンストラクションの統合と変容(イメージとヴォリュームの回帰)


絵画と三次元、ピカソの場合−3
 コンストラクションの統合と変容(イメージとヴォリュームの回帰)

昨年12月に書いたブログの、最後に取り上げたGuitar. Ce’ret, spring 1913 の後、彩色のない「彫刻としてのコンストラクション」と彩色された「圧縮されたコンストラクション(絵画としてのコンストラクション)」に二分されていたコンストラクションが統合され、変容する。

ひとつがGuitar. Ce’ret, spring 1913の後、同年秋に制作されたMandolin and Clarinet. [ Paris, autumn 1913](写真1)である。それまでの薄い素材、厚紙や薄い鉄板から、厚みのある木の板になり、クラリネットに至っては明確に分かりやすいイメージとヴォリュームが回帰している。ただ、この作品では彩色が部分的、しかも表面のみであり、彫刻としてのコンストラクションに近い様相を見せてもいる。この後、翌年早々にイメージとヴォリュームの回帰がさらに明確になる。

写真1
        
それがStill Life. Paris, [early] 1914 (写真2)である。写真1のクラリネットで明確になったヴォリュームとイメージの回帰が明瞭で、カーテンの縁飾りがそのまま引用されている。イメージの回帰が現実の引用と組み合わせ=アサンブラージュにまで至って、彩色もほぼ全体に施されている。グラス他のモチーフは、ピカソ特有のデフォルメされた形体になって、後の絵画を想起させる。このヴォリュームの回帰はGlass of Absinth. Paris, spring 1914(写真3)では、スプーンという現実の引用とモノリス(グリーンバーグ)への回帰にまで至り、キュビスム的解釈による形体と彩色という点で異なるものの、11月に取り上げたWoman’s Head ( Fernande ). Paris, autumn 1909 のような伝統的彫刻のありかたに近いものとなっている。形式的には彫刻としてのコンストラクションの完成形であるGuitar. Paris.[Winter 1912-13]から後退して、後年のより伝統的な彫刻への回帰を予告している。

写真2

写真3

このヴォリュームとイメージの回帰、形式的後退に対して、対抗的に制作されていると思われる作品がGlass. Paris, [spring] 1914 (写真4)である。小さな作品ではあるが写真3と同様、自立する彫刻的構造を持ち、12月に取り上げたGuitar. Ce’ret, spring 1913の、絵画としてのコンストラクションの完成形と形式的に対照的な「彩色された彫刻としてのコンストラクション」であり、イメージとヴォリュームの回帰とは異なる三次元の形式を携えた作品になって、ずっと後代の彩色彫刻と直接つながる表現になっている。

写真4


                                 (古川流雄)